紅葉饅頭ロマンス物語

放送されなかったラジオ番組(RCC)の元台本

作・島田廣

大学で考古学の准教授を勤めている伸子はもう四十近い。

「学問に一生を捧げている」
なんて恰好つけてはいるが、はたから見れば、ただのオールドミスなんだろう・・。
人類が過去に遺した「遺物」から人類の歴史と文化について・・土を漁る、考古学。
映画のインディ・ジョーンズみたいなわけでは全然ないと断言できる。

今日は11月10日の午後。
秋は深まり、誰にとってもこの季節はメランコリィック。

大学の校門をでて伸子はJRの広島駅からほど近い「にしき堂」本店にやってきた。
イロハモミジが見事に紅葉している。
伸子は懐剣・武人茶道の上田宗箇流の茶の道を少々かじっている。

「にしき堂」の1階の吹き抜けに描かれている曼荼羅「平家物語」。
これを眺めながら店内のイートインで、一人茶の至福。
中世日本の奔流を感じながら、私の人生を勇気づける。

伸子は長い脚を組んだ。

「明日の約束。あの人は忘れてないだろうか」

伸子の胸がキュンと鳴る。
吐息をついてサービス茶をもういっぱいいただこう。

伸子と邦夫の出会いはもう4年前になる。
やはり、今時の秋だった。

宇品の歴史博物館を訪ねて、そこで邦夫を紹介された。
彼の仕事は、博物館の通常勤務のほかに、広島の風俗歴史、
口承伝説のなかに登場する妖怪変化を網羅し、
それらの登場背景を調べ時代の変遷の中にそれを意味づけるそんな研究をしていた。

「妖怪は信仰が衰えて零落した神の姿」
とい言われた時、伸子はドキとした。

「例えば英国の妖精ですが、この国のオリジナルです。
それが西洋文化圏に伝播したんです。
シェイクスピア作品を題材にした中世の絵画は非常に興味深いものばかりです」

笑顔で話し続ける邦夫に伸子はいつしか恋をしていた。

毎月1回の博物館訪問が待ちきれなくなる。
邦夫とすごす時間を思うと伸子は切なくなる。

去年の今日。

調査が一段落して博物館への訪問も最後の日。
11月11日。
邦夫が唐突に、伸子に小さな声でこう言うのだった。

「来年の秋の今日、11時に宮島もみじ谷公園の入り口の橋の上でお会いしたいんですけど」

「その日、お会いして結婚を・・その・・求婚したいです。お願いします」
と邦夫は頭を下げた。

明日がその日。

この夜、大勢の妖怪が伸子の夢に現れた。
妖怪たちは大騒ぎだった。

11月11日、10時過ぎの宮島行の連絡船に伸子はいた。
発船まじかの桟橋を走って乗船する邦夫を見かけた。

「ここで話しかけるのはやめよう。ゆっくりともみじ谷に行こう。・・
今度、にしき堂に行くときは二人でいくわ。
邦夫さんと一緒にもみじ饅頭を食べるんよ」 

伸子は一人ほくそ笑む。

赤い大鳥居がまじかになって観光客が一斉にカメラを抱えた。

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