天国アプリ

作・エイちゃんと六人の幽霊係    

表紙絵 Eisei Mituta
発行部数 50部
発行人 島田 廣(りてらしくらぶ)
A7版 最小最少の手作り掌小説

COVID19のパンデミックが世界中を覆った。
日本でも大勢の人達が新型コロナウイルスに感染して亡くなった。
一人一人はみんな誰かの大事な人。
「さよなら」も言わずに突然、いなくなった。
大好きだった、あの人、この人。
あの笑顔をもう一度みたいな。
子どもたちは、PCはなんでもできる。
きっと、天国のあの人にアクセスできると考えた。

The COVID19 pandemic has swept the world.
Each person suddenly disappeared without saying goodbye.
Children can do anything with a PC.
They could definitely access that person in the Heaven.

五月も終わるその日、ぼくは、菜の花を写生した帰り道、天国アプリを拾った。
そのアプリケーションは黄色い菜の花の茂みに隠れていた。
濃い緑色の小さなアプリ。
アプリには黒い色の漢字で「天国」と書かれていた。
ぼくはすぐに幽霊係のみんなに連絡した。
放課後、幽霊係の六人全員がオンボロ校舎のエリア51に集まった。
そして、おどろいたことには、この写生大会の日、幽霊係の全員がこの天国アプリを校庭の大きな花壇やその周辺で拾ったということだ。

グッチャは、青いアプリを花菖蒲の咲く湿地のなかで見つけた。
ケヤキは、ダリアの根っこ、ハプトは、芍薬の大きな花のした、ヒセキは矢車草の細長い茎に黄色いアプリが花びらのようだったと、みんなに話してくれた。
ルソーは勉強好きの理屈屋だから、草花にあまり興味がないのだけれど、ジャガイモの茎にくっついたその紫色のアプリを昆虫とまちがえたそうだ。
この季節はどこもかしこも草花でいっぱいだ。
ぼくがいまも不思議なのは、あの日写生した菜の花だけど、あれっきり、いくらさがしても見つからないことだった。
さあて、ぼくら幽霊係の目的はなにかというと霊界との通信なのだ。
そして幽霊係の目標は、幽霊係のみんなそれぞれが霊界にいる会いたい人と交信すること。
ぼくは、大好きだった、じじにもう一度あって、どうしても伝えたいことがあるんだ。
ぼくらは、その日、みんなのアプリを幽霊係用のパソコンにインストールした。
赤橙黄緑青藍と六つの色がきれいにならんだ。
紫を加えると虹の七色だな、とぼくは思った。

その後、それぞれが一人ずつパソコンに向かい検索欄に通信したい人の名前を入れ「伝言」を書き込む。
明日の放課後にまたここでの集合を約束してそれぞれが下校することとした。
こうして、つぎの日にまずは、女の子から順番にパソコンにむかった。男の子の順番は、ぼくが最後になり、ルソーがぼくの前だった。
ぼくとルソーはオセロゲームをはじめてぼくらの順番を待った。
オセロは大接戦でとても時間がかかった。とうとう最後の四隅を取る罠が決まってぼくが勝った。
ルソーは悔しそうだった。そのころには、もう二人のほかに誰もいなかった。
ルソーはこんなことをいってパソコンにむかった。
「日本の幽霊はたいてい女の人で、長い黒髪に白い服だろう。
白と黒。外国の幽霊は普通に人間の姿をしているよ」
それってオセロの白黒の駒勝負とは関係ないんだけど。
天国宛ての送信キーを押してルソーは帰っていった。
ルソーは部屋の扉の前で、しばらくのあいだ、じっと突っ立っていたが、黙って出て行ってしまった。
ぼくはひとりきりになった。

検索「ぼくのじいじ」
伝言「じじの好きだった本とDVDを読んでから見たよ。ダニーのような『輝き(シャイニング)』超能力がぼくにはないけれどね。
スズメバチの予告する幽霊屋敷。じじはコロラドへの旅。
すごい山道の場面が大好きだったね。景色がほんとに素晴らしいよね。
じじ、本を読んでいますか。
どんな本ですか。返信を待っているよ」。

送信キーを押して、ぼくはパソコンを閉じた。
エリア51の扉を開けてもう一度ふりむくと、パソコンの向こうにじじの姿があった。
いつもの青いシャツに青いGパン。やはり青いキャップに真っ白な銀髪。
お気に入りのオレンジのズックを履いていた。

あの日から、一年。
幽霊係のみんなはそろって、近くの中学校の一年生になった。
天国アプリには、誰からの返信もなかったし、アプリもそれきり起動しなかった。
でも、いつか「きっと返事がくる」と全員がいまも信じている。
霊界も宇宙も無限の彼方。
限りない世界。
無数にある命のかけらの、そのなかの尋ね人は、とても時間がかかるのだろう。
ぼくはこう思う。
あの日、エリア51で、みんな、会いたいなと思う、亡くなった人たちに、きっとであえたんだなと。
ぼくとおなじようにね。

天国の在処はどこ。
エイちゃんは想像する。
宇宙の果て。
果てしない宇宙。
空の彼方。
その先の空。
空。
空。

果てしない宇宙のその中の小さな僕の小さな命。
夏はいいな。
青空が広がる。
風が吹く。
雲が流れる。
僕だけの時間がそこにある。

僕は、ひとり、青い芝生に寝転がる。
目を閉じる。
え~と、あの歌の歌詞、なんだっけ。

Summer is nice.  The blue sky spreads. The wind blows.
 Clouds flowing.
 I have time just for me.
 I lie down on the grass alone.
What are the lyrics of that song?

この小説を書いてからもう三年以上が過ぎた。
エイちゃんたち幽霊係のみんなは、この春、中学三年生になる。
エイちゃんは、ずっと美術部に所属し、図書委員も務めている。
身長は180㌢にもなった。
この頃は、外国語に凝っていて、韓国語やアラビア語に興味のある友人探しに学校内を捜索している。

りてらしくらぶ NY

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です